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 水のほんとの常識(1)

 はじめに一専門家ということについて

 ここで取り上げる「水」は、飲むための、あるいは食物の原料としての水で、工業用の水でもなけば、化学実験用の水でもない。この両者、つまり人が体内に取り込むための水と、産業の原料や副資材としての水とは画然たる区別がある。例えば、飲むには細菌が死んでいればいいが、IC用の洗浄水はこの細菌の死骸さえあっては困るという。
 ところで、「水のほんとの常識」というのはえらそうな題名だが、この中の「ほんとの」は、いってみれば惹句である。「水の常識」といったならば、誰もフンと横を向いて読んでくれないだろう。どれを読んでいいか迷ってしまう程、水に関してはいろいろと本が出ているし、第一、水なんてのは常識の枠の中だと大方が思っているからだ。
 その通り、水は食べ物の中で(飲料も食品だから)もっとも一般的で、もっとも手近にあり、もっとも使う量が多く、想像できる限りの昔から使われ、しかも、それを使うのに特別な知識や技術を必要としない。
 しかし、一方で、もし水の品質が悪いと、それはたちまち食べ物の質にまで影響するし、場合によっては料理の腕を水のせいにされるという冤罪を被ったり、そこまで行かなくとも、この水はこの料理に合わないといわれたりする。水の性質はかなり地域性があり、それは単に村とか町とか限られた範囲ばかりでなく、世界の各地城についてもいえるから、水がその地域の食生活にも影響するのだ。人には定住性があるから、自分の住むところが大方の世界であり、その地域の水がもっともなじみのある水となる。

 こういった条件、つまり日常的で扱いやすいということと、何らかの特性を持つということが、誰にでも水について一家言を持つことを可能にする。それはあたかも建築について日常耳にすることに似ているのではないだろうか。「この家は私が設計しました」という人が、特に女性に多い。その意味は、多くが居住空間の区分・配置を自分で考えた、ということのようだ。なるほど間取りというのは、住む上で重要な要素であり、一番の関心事に違いない。しかしそれはいわば「可愛い表現」であって、本当に「設計」に値するかとなるといささか問題がある。
 いうまでもなく、家とは一つのシステムであり、このシステムの目的は必要数の人間を(予測数を含めて)安全かつ快適に生活させることにある。更にいえば、街という、より大きなシステムに組み込まれる要素としても考慮することが必要だろう。
 安全という側面からは、建築基準法という大枠の中で、土砂崩れがないところかとか、土台の構造は、材料の強度は、構造上の強度は、床の耐圧は、内装の難燃性は等々を考え、快適という側面からは、間取りを含めて、動線やら、色彩やら、生活上の設備までを考え、建て主側の最大の要件、建築費の限度の枠の中で最終的に一つのシステムにまとめ上げるのが設計というものだろう。
 私は建築に関してはずぶの素人だけれども、少なくともこういったものが設計だろうと見当は付くし、自分で「ほんとの設計」ができるとは思わない。だから、はるか音にごくささやかな家を建てたときも、また後にいくらか手を加えたときも、正規の資格のある設計士に、ちゃんと建築費の何%かの設計監督料を支払って建ててもらった。
 この設計士は小学校の時からの友人であり、悪戯坊主時代からの私の性格は十分に承知している。支出可能の金額と、間取りの希望を述べただけだが、今の家で自慢できるものがあるとすれば、それは一貫した設計思想で建てられているということだけだろうし、その点については充分に満足している。
 しかし、専門家といえども間違いを犯す。犯すけれども、それは彼にいわせれば、「う一ん、あのときは台所の配置が、ちと理想に走りすぎていたな」であり、また、「当時は今のようないいオイルステインがなかったからな」という範囲である。つまりまともな専門家であれば、普通の家に冠木門をつけたり、低い天井にシャンデリアをつけたりはしない、ということだろう。

 われわれ素人は、ともすると一つのことだけに目が行き勝ちである。中止になって幸だったが、京都の鴨川にバリのセーヌ川に架かっているような橋を架けようという発想は、その意味で素人の発想だといわれても仕方あるまい。京都という大きな環境システムとのバランスを考えているとは、とうてい思えないからである。
 もう大分前のことになるが、Aという大新聞社が朝刊に連載記事を掲載したことがあった。その題名は「〇〇はいらない?」というもので、この世にある大方、とはいわないまでもかなりのものが不要ではあるまいか、という発想の記事であった。そのうちの一つとして、ミネラルウオーターが取り上げられ、私のところにも電話取材があった。2時間ほども話しをして説明したのだが、出来上がった記事を見て唖然とした。言わなかったことを書いてはいないが、見事に趣旨に添って切り張りしてあり、挙げ句の果てに、さる大学の先生の言として「水は生活する上での基本物資であり、商売にするのはけしからん」という意味の発言で締めくくっている。
 この先生が本当にそう発言したものであれば(怪しいものだが)この記者を含めて、基本的な生活用水である水道水と、嗜好飲料であるミネラルウオーターとの区別もできないということである。幸い、この新聞社に友人がいたから、その友人を通じて記者に話しをしてもらった。友人の返事には、もし問題があるのなら、文書にして提出してほしいし、どだい、そんな「文句はいらない?」というまことに人を喰ったものだった。
 それ以来、私は新聞記事、特に表題を持ち、そのためにどうしても合目的的にならざるを得ない、いってみれば既にストーリーがあり、取材は単にその外を装うにすぎないような記事は信用しないことにしている。
 新聞作りの専門家にして、「〇〇はいらない?」という一つのことに固執して、世の中には要るものもあるのだという柔軟な思考を曇らされることがある。ましてそれを専門にしていない人が、容易に取り組めるからといって、一家言持つということは、普通ならご愛嬌だが、もしそれが何らかの権威を背負って間違った発言をされるとしたら、それはもうご愛嬌では済まない。

 最初に述べたように、水は極めて取り組みやすく、話題になりやすい製品である。それだけに誤解も多い。誤解を解くというのではなく、ほんとのところはこういうことではないだろうかと説明するのがこの小文の目的である。
 私は化学者でもなく、科学者でもない。一般的な科学の教育は受けたけれども、水一般に関する研究者でもない。ただ、長年にわたって容器入り飲用水の仕事にたづさわってきたので、いろいろな文献を目にする機会も多いし、日本以外の国々の考え方を知る機会も多かった。
 自分の研究というのではなく、多くの専門家の著書や資料を引用し、いささかの考えを加えて、水というものをいろいろな角度から眺めてみたい。「常識」という漠とした範囲を設定したのは、その角度が必ずしも科学の範囲ばかりではないからである。もし、この文章が何らかの意味でこれまでの常識なり誤解を正すことができるならば、望外の幸せといえるだろう。(1998.8.31)

        執筆:(社)全国清涼飲料工業会 技術委員 福田正彦 

水を買うことが当たり前になった日本、種類も豊富でどれを選んだら良いのか分からない方も多いと思います。福田正彦さんの『水のほんとの常識』で水についてほんとうの正しい知識をもっていただけると思います。

水のほんとの常識ネクストナンバー

Vol. 2 (2、3)

1.水はなぜ必要か(その1、2)

99/9/12〜

Vol. 3 (4、5)

2.身体の中にどれほど水があるか
3.人はどれはどの水を必要とするか(その1)

99/9/19〜

Vol. 4 (6、7)

3.人はどれはどの水を必要とするか(その2)
4.なぜ海水は飲めないのか

99/9/26〜

Vol. 5 (8、9)

5.われわれはどれはどの水を使えるか
6.水のおいしさとは何か@量の概念について

99/10/3〜

Vol. 6 (10、11)

6.水のおいしさとは何かAおいしい水研究会(その1、2)

99/10/10〜

Vol. 7 (12、13)

6.水のおいしさとは何かB日本の水質との関連で
6.水のおいしさとは何かC量による解析一Oインデックス

99/10/17〜

Vol. 8 (14、15)

6.水のおいしさとは何かD量による解析一官能の解析
6.水のおいしさとは何かE結局よく分からないという話

99/10/24〜

Vol. 9 (16、17)

7.ミネラルウォーターと水道水はどこが違うか(その1、2)

99/10/31〜

Vol.10(18、19)

8.ミネラル分の量と性質について
 (その1)・(その2)一イオンとは何か一

99/11/7〜

Vol.11(20、21)

8.ミネラル分の量と性質について
 
(その3)・(その4)一 ミネラル総量のつづき 一

99/11/14〜

Vol.12(22、23)

8.ミネラル分の量と性質について
 (その5)一 ミネラル総量のつづき 一・(その6)一 重炭酸塩とシリカ 一

99/11/21〜

Vol.13(24、25)

9.ミネラルウオーターの生い立ち(その1)・(その2)ヨーロッパ

99/11/28〜

Vol.14(26、27)

9.ミネラルウオーターの生い立ち(その3、4)ヨーロッパ(続き)

99/12/5〜

Vol.15(28、29)

9.ミネラルウオーターの生い立ち(その5、6)ヨーロッパ(続き)

99/12/12〜

Vol.16(30)

9.ミネラルウオーターの生い立ち(その7)ヨーロッパ(続き)

99/12/19〜


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